第二十五話 世界の変わる日
「出てみろ。味方はそれなりに居る」
真那の言葉に誘われ、近くにあった扉のドアノブを捻る。
鳴神をそのままにしていた為、どうしようかと迷うと、
「あぁ、俺が看ておくよ」
「解った、頼む」
捻って開けた外に広がるのは、森。
これだけ開けているのに何故バレないのだろうか、とまで考えてから気づく。
真那は炎系統の術が得意なのだ、陽炎だとかその辺りを使って隠していると考えるのが妥当だろう。
しかし、文化的だ。
森の中、そしてあの太陽都市から隠れながら過ごす。
それがどれだけ難しい事か分からないと言うのに、世紀末世界より多少進んだ文明が存在しているように見える。
と言う事は……。
「うん、そうみたい」
「鳴神先輩もそう思いますか」
一旦戻ってきた。大体は見て回ったし、同時に此処の住人にもしっかりと観察された。
どうやら俺の外見を特に気にしないような目を見る辺り、大抵は覚醒者、或いはソゥハイトやペルソナだとかの類に対して知識を持つ人達らしい。
そしてそれだけの知識を持ち、更に文明が進んでいる。
俺と鳴神が其処から導き出した結論としては、『この村自体が異世界の物』ということ。
俺達の居た東棟が西棟と分離して此処に転送された事を考えれば、もしかすれば更に異世界の物が存在したってなんらおかしくはない訳だ。
「ねぇ」
「何すか?」
「隠している事があるなら話して」
鳴神がこちらを見る。
こちらに隠し事があるなんて事はうすうすなんてレベルじゃなく気づくだろう。
これ以上この人に隠したって、何か得があるとも思えない。
この人が真那の切り札なら――。日常に回帰する為に、この人の異常を使わざるを得ないんだから。
「鳴神」
「、」
声のトーンも、呼び方も。
表面上だけ被っていた、人の皮も。
何もかも変わったその瞬間、鳴神の表情が変わる。しかし、少しだけの安堵が其処に見えた。
「今から話す事はありえない事だ。『お前達の世界では』」
「ありがとう」
話し終わって最初に鳴神から言われた言葉はそれだった。
「礼なんて言われても、な……。これでアンタも、完全に日常に戻る事は無くなったぞ」
「それでも。教えてくれた事は嬉しいよ」
ずっと独りだったから。そう鳴神は言った。
その言葉だけで、大分読める。
何故この人が、屋上で悠斗に傷を付けるほどの力を持てたのか。
何の為に、それだけの物を生み出してしまったのか。
孤独は、人を蝕むのには十分すぎる。
「一度だけ聞くぞ、鳴神。お前は悠斗に何をした」
「してないよ」
あっさりと答えられた。
しかし俺が屋上で見たのは、確かに鳴神に刺されている悠斗。
そのことを話してみると、鳴神は首を傾げた。
「私、屋上になんか行ってない。篠鐘さんが私を襲った事もその理由も聞いたけど、解らない」
じっと、こちらを見る。
「嘘は」
「吐く訳無い。貴方が私を信じてくれたなら、私は貴方を裏切らない」
「……解った」
しかし、間違いなく俺が屋上で見たのは鳴神だった。
かといって憑依するだとかの能力を持った奴を見た事はない。居るとすれば空の上に浮かんでる奴らは思ってるより更にやばいかもしれない。
或いは、全くそれとは関係のない話か。
「さあ、始めるか」
真那が言う。それと同時、彼の周りにいる人間達が魔力の帯を張り巡らせ始める。それは余りに微弱で、大した魔術も使えそうにはない。
数十秒が経過すると、その魔力は相当な範囲を蜘蛛の巣のように這った。
魔力をまるで電波のように一帯に張り巡らせ、そして世界の全てに申告する。
俺達がこの世界を変えてやる、と。
「第三勢力、か」
「如月真那め、よくもまあ、やってくれるモンだ」
予想以上に、派手に動いてくれた。
奇襲でもかけてくれるかと思っていたが、まさか高らかに設立を宣言するとは。
どんな魔術を使ったか、虚空に浮かんでいる真那の映像を見つめている章人の表情は、
余りに不気味だった。
世界の変革を宣言した真那は、続ける。
『告げよう。この世界を変える、俺達の名は――』
「――シュブニグラス」
真那の言葉と同時に、世界の変革は始まる。
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