第二十四話 交錯する影


 左手首に着けられたブレスレットを見る。それは白い。
 砕かれた夢の、置き土産。


 どうにか、今のところは予定通りだ。
 紅のリンゴがその銃を息子に託さなければ、この世界は終焉を迎える。
 それはあってはならない事。
 俺の企みが章人にバレているとは思えない。
 ただ、奴は貪欲に過去の知識も何もかもを掌握していく。
 慎重に事を進めなければ……。
 太陽都市の上から、下を見る。
 廃墟と化した(ように見える)東棟が、其処にある。
 西棟に悠斗は隔離されているはず、問題は欠片もない。
 ……そう、問題など。
「我々、そしてこの世界の人間」
 章人がポツリと呟く。……いや、今のコイツに名は無かったか。
「どちらが勝つか、それは現状だけで見れば確定している」
 しかし、だ。
「しかし、不確定要素は幾つかある。先程砲撃を逃れた僕を知る者」
 そして、如月真那。
 奴は量産型ロックマンの内数体を保有している。
 この世界にロックマンをこれ以上存在させる事は不可能だ。この世界の文明ではあれらは製造不可能。古代文明の復活も現時点で打ち止め。
 問題は所有者。
 悠斗という、こちらにとって最も居てはならない敵は元の世界にいるはず。
 ヤツが異変に気づく事など無いはずだ。
 だが、如月真那。
 こいつがこの世界に存在する、それは章人にとっての誤算。
 それはそうだ、この異変は誰にも気づかれる事の無いよう、影にとけ込むように仕組まれた物。
 それを奴に気づかせたのは――俺。


「この世界を……戻す?」
「あぁ、元々の路線……は解るよな? 其処にこの世界を戻す」
 要は、リンゴが生き残り、そしてマーニと出会い、ジャンゴが、サバタが、この世界に生を受け、銀河意思と戦う。
 その路線に、この世界を引きずり戻す。
 ユグドラシルは向こうの砲撃システムに組み込まれた。デウス・エクス・マキナは既に消滅している。
 俺の持つカードは一枚。
 佐上とのリンク。
「それが俺の一枚目のカード」 
 真那が言う。そして中指を立て、
「二枚目は、其処」
 視線が向けられた方向には――、鳴神。
「……もう一度聞くぜ。彼女に、何がある?」
「女性には、秘密が在る方が面白いさ」
 知らせない事を楽しむように、真那が笑った。


「あぁ、彼に害は感じなかった、だから俺は此処に居る」
「ふむ」
 目の前にいる紅いマフラーの男から危害を与えるような様子は見えない。
 相変わらず晶波先輩には篠鐘さんや秋宮先輩の相手をしてもらう事にしている。
 というのはともかく、目の前にいるリンゴという男性。どうやら春日先輩と接触したようだ。そして異常の現れた彼はリンゴさんから離れてこちらへ向かった、と。
「……一つ問います、貴方はどの側ですか」
「俺はあいつらをどうにかしたいだけだ」
 言いながらリンゴさんは上を指さす。遙か彼方に見える城が、堂々と其処に在った。
「解りました、信用しましょう」
 彼がもしこちらの敵だとしても、覚醒者が四人居れば少なくとも互角にはなれるだろう。
 腰に下げている銃や、その他不確定要素を含めれば危険かも知れないが、春日先輩が危険な存在をそのままにしておくとも思えない。


 ある種の賭けだったが、どうにかなったようだ。
 春日が謎の力を持ちながらもこちらに荷担を(例え短期間でも)したとはいえ、他の人間が全てそうとはとても言えないからだ。
 彼の味方である人間と接触出来たと言う事は大きなプラスになる。
 この世界を……救う為の。
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