第十七話 削り削られ


 トン、
 足音が床に響いたという感覚が伝わるその前に凌は背面の壁に叩きつけられた。音速を超えたか、叩きつけた直後に爆発するかのような音が鼓膜を振動させる。
「っご……!」
「……く」
 肺の空気を全て吐き出して、凌が短く呻く。が、その凌に一撃を与えたはずの和途の腕に鎌鼬でも受けたような切り傷がついていた。
 其処から距離を取り、
「そうか、そういうことか」
 凌が呟く。
「あー、バレたなら話は早い」
 そう言った和途の口から血が流れる。
 膨大な力という物は、どうやら春日自身では制御しきれない物だったようだ。先程一度死んだ(のかどうかは知らないが、凌のあの技を食らったのだから相当危なかっただろう)せいか、デウス・エクス・マキナは機能していない。
 となると外部記憶装置も無い訳だから、このまま発動させておくと流石に不味い。かといって、目の前にいる人間はこの能力を使わずに勝てるほど甘くない。
 そして其処まで凌は解っているようで、こちらの一撃を迎え撃つべくもう一度先程の技(天羽とか言ったか)を撃つつもりらしい。
 レイプトラズトを握りしめた手の辺りからぐちゃりという音がする。見てみると血のせいでその辺りだけが水晶を紅く染めていた。
 殺す為に、構える。間違っても吹き飛ばすだけだなんて考えちゃいけない。その時点で俺は……死ぬ。
「天羽!」
 凌の背中に氷の双翼が生える。そしてそれは大気を凍らせながら尾を引き、春日を切るべく突っ込んでくる。
 ポタリと、床に血が落ちたその瞬間、その血を爆発させて飛ぶ。床を爆発させても恐らく無効化されるだろうし、加速するには丁度良い。
「ぶっ飛べえええええええ!」
 雄叫びと共に斬撃を放つ。それはこちらへと突っ込んでくる凌と激突し、


「全く、何なんだこの機械共は」
「それが解ったらとっくに手を打っている」
 それはそうだ、とリンゴがため息を吐く。先程銃声が聞こえた所にいた機械兵達を片付けて地上に来た所だ。といっても、余り堂々と動けばすぐさま空中に浮かぶ太陽都市から降る砲撃に焼かれるが。
 などと考えていると突然砲撃の様な音が鳴り響く。その方角を慌ててみると、今までなかったはずの建造物が其処にあった。
 そして次の瞬間に其処へと向かって砲撃が放たれる。其処にあった建造物は跡形も無く――。
「……え?」
 砕けなかった。
 有り得ない。その驚愕と共に希望と成り得るかも知れない其処へ走り出そうとした瞬間、リンゴの足におてんこ様の足(根?)が巻き付けられる。
「落ち着けリンゴ! アレが砲撃を無効化出来たとしても派手に動けばこちらが撃たれる!」
「……解った」
 そう言った次の瞬間に、建造物が更なる砲撃によって粉々にされた。しかしそれは関係ない。
 一発耐えられる技術があそこにあるというのなら、何が在ろうと行かなければいけない……!


「残っていてくれれば一番良かったのだが……」
 おてんこ様のその言葉を聞きながら一歩踏み込んだその瞬間、目の前に先程の建造物が建っていた。
 リンゴの瞳が驚愕に見開かれる。馬鹿な、先程確かに砲撃によって砕かれたはず――?
 ジャリ、と。砂を踏む音が響く。直ぐさま太陽銃を抜きそちらへと構える。この技術は確かに望み続けていた物だが、それを所有している物がこちらの味方という訳では無いだろう。
 見た目は10代半ば、少なくともリンゴよりは年下だろうと思われる。その少年がふらふらとこちらに歩いてきて――。
 倒れた。
「……え?」
 拍子抜けし、しかしその直後にその油断を消し太陽銃を構えたまま近づく。どうやら気絶しているよう――。
「寝てるな」
 おてんこ様がぽつりと呟く。よく見なくてもところどころから血を流しているその少年は其処で倒れて、寝ていた。
 しかしそういうフリをしているだけかもしれない、という事でリンゴがおてんこ様の方を向く。おてんこ様は頷くと、地面をじっと見た。そこから蔦が伸び、そしてそれを使って少年の手足を縛っておく。
 寝ている少年を担ぎ上げ、さっさと其処を立ち去る事にした。こんなとんでもない技術を持った所だ、多数を相手にして流石に一人(と一匹?)で戦いきれる自信は無い。
 砲撃でも壊れないならば、この少年から情報を得てからでも遅くはないはずだ。
 しかし、彼等は何故こんなに軽装なのだろうか? 剣の一本でもあれば容易く切り裂けそうな服を着ているが……。
(いや、これだけの技術力だ、どうなっててもおかしくはない)
 ひとまず全ての考えを頭を振って追い出し、少年を担いでリンゴは歩き出した。
 しばらく歩いてから振り向くと、矢張り其処には建造物の残骸しか見えなかった。
前へ/戻る/次へ