第十六話 謳詠い
「氷崩」
氷が押し寄せてくる。さて、氷ってのはようは冷たいですよねそうですよねうん。
相性がいいのか悪いのかがよく解らない、なぁ。
両手を床に付ける。朱い魔法陣が這いずり回るように床に展開され、そして発動される――、
「嘆唄」
バン、という炸裂音と共に、魔法陣上の氷が全て消滅する。
これで基本的に彼の氷は無効化出来るはずだ。水も炎系統の魔術さえ使えば蒸発させられるだろう。
「断水」
まるで銃弾の様な速度で、水が空を駆けた。その速度にまさか詠唱が間に合う訳もない。右肩が貫かれる。しかしその水は未だに彼の指先から伸びていて、つまり
「くそ!」
水の柱を適当な部分から蒸発させる。それと同時に凌がくん、と指を上に跳ね上げ、蒸発させた部分より手前の部分だけが上に上がった。
あのままだったら恐らく貫かれた所から右腕を落とされていただろう。そう考えるとぞっとする。
無詠唱で放てる魔術を適当に出してみる。炎弾が凌の方に飛ぶ。が、それは氷であっけなく止められてしまった。
さて、互いに相性が良いような悪いような。こうなった場合は恐らく実力が関係してくるのだろうが――。
残念ながら、凌は何かを知っているようだ。こちらの世界の何らかのルールを知られている場合、知らない俺が圧倒的に不利だろう。
考え込んだその一瞬は、凌が刀を持って踏み込むには十分だった。
懐に潜り込み、そのまま片方の刀をこちらへと突き出す。が、それを盾状に展開させたレイプトラズトで防ぐ。凌の表情が少しだけ驚愕に染められた辺り、恐らく彼が知っているのはこの世界の話だけだろう。
そのまま凌は一回転し、もう片方の刀でこちらへと斬りつける。それもレイプトラズトで春日は防ぎ、白の右腕で凌を殴り飛ばす。
一瞬だけ宙に浮くような感覚があったが、直ぐに空中で自分の状態を制御し、こちらへ向き直る。元々空中コンボなど繋げる余裕も無かった俺はそのまま其処に立っている。
ヒュン、と。虚空を切る音と共に、二振りの刀を凌がしまう。そして彼はこちらへと駆け出し――。
……違う、刀はしまわれた訳ではなかった。それは彼の“技”の媒介――!
氷の翼が彼の背中に生えていた。
「天羽」
そしてそれは容赦なく俺を切断し――。
……真っ暗な世界に俺は着いた。
右腕が無くなっている辺り、デウス・エクス・マキナとの会話も不可能なのだろう。
「それでもお前はまた行くんだろ?」
聞こえたその声は随分久しぶりで、そして、もう二度と聞くつもりの無い声だった。
「……神殺し」
「全く、お前がそれをやったって、俺だって外部バックアップくらい取ってあるさ」
言って、そいつはため息を吐いた。それ、っていうのは、恐らくは俺がこの世界に来る時、全てとの関係を絶とうと全員の記憶を消した事。
「それは春日和途の一つの未来、別にそれにどうこう言うつもりは無い」
言って、そいつはカチリと何かを押した。春日の真横に、青いウィンドウが現れる。
「お前と俺のデータだ。使いたければ使え」
言って、そいつは回線を切ろうとする。
「あー、……そもそも使わないと勝てないかも知れないけどな?」
言って、そいつは俺に手を振る。
「神殺し」
言うと、そいつはもう一度画面に向き直る。
「助かる」
「お前に礼を言われると何だか怖いな」
俺達には、それだけで十分だ。
会話は終わり、回線は途切れる。
ファイル名はウタウタイ、
いつぞやの世界で俺と神殺しの奴が紡いだ力、
今度は、俺が全ての権限を持って使う。
ベタに言うなら融合、もしくは――、
「……変身、かな?」
ってあれ、パスワード付いてるじゃないか。
「0103 0401 0103 0401 0102」
幾らなんでも単純すぎる気がするが、それが俺とアイツの関係だったりする。
パスワード解除、インストール開始。
……完了。
そいつは、ゆらりと立ち上がった。
確実に、俺の技を食らったはずなのに。
それでもそいつはゆらりと立ち上がった。
そして、言った、
「残念でした。コインを投入しなくてもコンティニューは出来るらしいぜ?」
右の目の朱銀が、ぎらりと光った。
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