第十五話 魔狼と機神
今更ながら、遭遇しないように動く、というのがどれだけ大変かと言う事に気づく。
いちいち足音に反応して其処から離れようとしているし、さてどうしたものか。下手をすれば戦闘音でも気づかれるかも知れないので全く動けたモノではない。
ひんやりとした感覚が突然襲った。殺気……ではない、もっと何か違う物……。
「……アンタは……」
そいつは、見た事のある人間だった。だが、この世界での立場は憶えていない。確か高等部だったような記憶はあるのだが。
そいつは、俺の名札を見てから、一瞬だけ体全体を見渡す。身体に異常が無いか、という事だろう。
「成る程、覚醒者か」
「天羽先輩」
天羽凌。何故かこの世界に来てから名字が変わっていた。それはつまり彼が今までの世界とは異質な成長を遂げたと言う事なのか、それとも別人という状態なのか。
「アンタは、何か知ってるんですか」
「……あぁ、アレの事か?」
一応この場面で春日と凌は初対面とも言えるはずだ。今までに話した覚えは無いし、学校生活の作業で何かを共にした憶えもない。
しかし彼は直ぐに異形の事を話し始めた。今までの彼の記憶があるならば、そのことを俺が聞いていると察するだろう。だが、もしかすればそれすらも虚偽の情報かもしれない、其処まで考えて思考を止める。
元々頭が悪いのに、これ以上色々疑っててもしょうがない。
この世界は、この世界だ。
「これは選別。君は選ばれた、それだけさ」
凌が言った次の瞬間、
白の閃光と共に爆発的な速度で春日が宙を跳ぶ。尽きだした右腕を、鞘から弾くように抜いた刀でそのまま防がれる。
「遅い」
体勢を立て直そうとした瞬間に、鞘からもう一つ刀の抜ける音がする。抜かった、『凌が持つ武器は一本』だなんて言うのはこの世界でもそうだなんて言い切れない……!
『和途、レイプトラズトの修復終わったよ!』
黒の右腕の媒介である右腕が切断された事によって崩壊能力を失っていたが、ようやく修復されたらしい。
そのデータを凌が振る刀と俺の間に転送する。ギィン、と音を立てて凌の刀がレイプトラズトに衝突する。
「選別、ねぇ。……何で残っちまったかなぁ」
立ち上がり、左手で水晶剣を持つ。そのまま右手に放り、掴み取る。
それを合図にしたように、凌が今度はこちらへと跳ぶ。
剣と刀がぶつかり、軋む。ざわ、と彼の後ろから冷たい何かが押し寄せる。
「フェンリル」
全てを食らい尽くす魔狼が、凌の後ろから姿を現す。
「さぁ、覚醒者、春日和途。君は耐えられるか?」
「耐えなきゃ死亡、ってか? やってやるよ」
何もかもを救うべき神様が、春日の後ろに影となって現れる。
(行くぞ、デム)
この世界に来てからは初めてだ。
死なない為じゃない、護る為じゃない。
……殺す為の戦いは。
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