第十二話 微睡む君と、踊る僕と


 動かないのもあれなので、熟睡してくれている卓斗と秋宮先輩をそのままに、ひとまず俺に義和、緋芽の三人で動く事にし、保健室を出る。
 ……毎度毎度選択肢をミスる俺は確実にアドベンチャーゲームなんざ出来ません。かまいたちとかやってられるか。


 保健室を出て左。
 それが春日の視界の左端に映った瞬間、
『まず、』
 デウス・エクス・マキナの声と共に右手を真横に突き出すが既に遅く、緋芽が跳ぶ。
 咄嗟の事だったのでそのまま一瞬バランスを崩した俺を置いて義和が更に跳び出す。
 全員の視線が集中するその先は――。
 鳴神莉沙。
 こちらを見つけた瞬間に一瞬だけ人を見つけたという安堵の笑みを彼女は浮かべていた。
 先程屋上で見たあの光景が蘇るが、まるでそれが無かった事であるかのようだ。
 そして、その表情が次を紡ぐ前に緋芽の一撃が彼女を跡形もなく吹き飛ばそうとし、
 刃の部分を掴み、義和がその剣――あれが他の世界で見た物と同じならば、名は流光――を振る。柄の部分が鳴神を軽く叩き、緋芽の攻撃のラインから逸らす。
 この間は一秒にも満たない。
 人外という言葉ですら足りないかのようなこの膨大すぎる能力。それは、所持者によって幾らでも姿を変える。
 しかし義和の方など緋芽は見ない。欠片も視界にそれを収めず、ただ柄に叩かれ――実際それが無ければ今頃彼女はどうなっていたか解らないが――呆然としている鳴神を見下ろす。
「アンタが、悠斗先輩を……!」
 いつの間にか双剣として分離していたその弓を振り下ろす。
 しかしそれまでの時間は春日が体勢を立て直し其処に辿り着くまでには十分すぎる。
「止めろ、篠鐘!」
 白の右腕がそれを受け止める。流石に今度はソゥハイトの介入さえも許してくれないようだ。自我を持つだけでなく学習能力もきちんと持たれているとこういう場合は困る。
「なん、……で?」
 しかし、此処まで自分が馬鹿だと俺は気付けていなかった。奇妙な感覚を受け、緋芽の双剣を止めたまま、ギギギと首を動かす。
 後ろには、鳴神が居た。
 その手に握られた剣が、義和の腹部を刺している。バチン、と電気が迸り、義和は其処に倒れた。が、制服こそ傷ついているものの、彼に外傷はない。
 恐らく、その力はただ彼を気絶させる為の物。
「なんで、皆私を虐めるの?」
 しまった、そう思った時には遅い。後悔先に立たずとは良く言ってくれる物だ。白の右腕と双剣の間に稲妻が迸り、俺と緋芽が強制的に引き離される。
「なんで――っ!!」
 電気が一帯に迸り、緋芽が先程の稲妻で宙に浮いた状態から更に吹き飛ばされる。白の右腕によるガードは展開したが、どうやら緋芽には届かなかったようだ。
 そしてソゥハイトの影を後ろに背負わないまま力を使用した鳴神は其処に倒れた。
 しかし、あれだけの力を使うには相当の精神力を必要とするはずだ。ソゥハイトを使用せずにあれだけの能力を使える程の何かが、彼女にはあるのかも知れない。
 と、其処まで考えた所で世界全体が揺れる。世界と言っても今俺達の居る世界はこの学校の校舎唯一つ、だが。
 手近の窓から下を見る。暗く、ただ暗い漆黒。吸い込まれそうなそれが大地だと気づくのには少し時間がかかった。
 さて、取り敢えずどうしたものか。このまま落ちていく事になると間違いなくグチャリ、だ。
 西棟は悠斗に任せれば良いだろう。が、西棟がどうにかなっても、一緒に東棟がどうにかなる保証はない。変な壁があることだし。
 取り敢えず、義和のソゥハイト(と言っても今彼は気絶しているので無意識下だが)に伝言を頼み、動く。
 これなら鳴神と緋芽の事はどうにかなるだろう。
 ……その代わり、俺は此処に居られないが。まぁ、義和なら上手く立ち回ってくれるだろう、卓斗も居るし。


「じゃ、皆さん。良い夢を」


 聞こえないだろうけどそんな事を言って、俺は歩き出す。
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