第十一話 解放


 春日が跳び出すと同時に晴菜も跳び出す。先程まで戦ってきた異形達の中でこんなに早い動きを見せた物は居なかった為か、卓斗も義和もそれを逃してしまう。
 跳び出した晴菜の異形としての手が横に突き出され、その手に何かが握られる。
(……鎚?)
 鎚といってもそれは小さく、トンカチというかなんというか、その程度のサイズだ。強いて言えばピコピコハンマーサイズ。
 と思った次の瞬間、それは突然巨大化し、大気を真横に薙ぎながらこちらへと飛来する。
 突然巨大化されれば一瞬くらいは驚く物で、そしてその一瞬は鎚が春日の元に届くには十分すぎる時間だった。
「っご、ぇ!」
 左半身にその一撃をまともに食らい、そのままの勢いで壁に叩きつけられる。恐らく壁が壊れる程度の威力はあるだろうが、生憎今現在どんな力を使おうと壊せないであろう状態である為に、強制的に壁と鎚によって挟まれるという展開が待っている。
 身が軋む。壁と鎚の間に板挟みにされた状態でギリギリと万力のように鎚の側から締め付けられる。
 全身が痛覚の限界を訴え、意識がそれを途切れさせようとした瞬間に、鎚がまるで壁から吹き飛ばされたかのように離れた。
 どうにかその様を視界に収めると、その直後に、反対側から春日を助けようとこちらに戻ってきていた卓斗に向かってそれが飛んでいった。卓斗にそれが当たろうとした瞬間に、卓斗と鎚の間に魔力の杭が割り込む。
 それは鎚に当たり、爆風でそれを卓斗から離す。
 吹き飛ばされると同時に晴菜は鎚を手放し、身を低く屈める。まるで短距離走のスタートのように片足を後ろに出し、そして爆発的な速度で、空間を蹴り跳ぶ。
 その片足を白の右腕が掴む。くん、と引っ張られた感覚を感じたか、晴菜の目線がちらりとこちらを向き、だが大した反応を示す事もなく、それが当然であるように、春日の体ごと宙を駆ける。
(いけるか……?)
 白の右腕から、晴菜の足へと力を流し込んでいく。デウス・エクス・マキナの力によってどうにかソゥハイトが制御出来ればもしかすれば……。
 などと考えた瞬間に先程まで無反応だった晴菜が春日を振り払う。拒絶されたと言う事はソゥハイトの抑制は恐らく可能なのだろう。
 ただ、晴菜は半異形である為、完全に外見が異形となってしまった者が元に戻るかは未だ解らない訳だが。
 取り敢えず振り払われて宙に浮きながら考える。どたりと音を立てて地面に落ちたと同時、視界の端で石の槍が義和を捕らえようとしていた。
 卓斗の大剣がそれを防ぐ。意外と相性良いのか、コイツ等。そう思いながら起きあがり、再び春日が跳ぶと同時に、卓斗が背中から石の槍に貫かれた。v 「っ、」
 義和がそれを引き抜き、卓斗と共に後ろに跳ぶ。直ぐさま炎で傷口を焼いて塞ぎ始める。恐らく傷を塞ぐ事は出来るだろうが、後は卓斗次第だろう。
 が、今はそれにかまけている場合ではない。
 トン、と、白の右腕がこちらを振り向いた晴菜の心臓の辺りに触れる。其処から、デウス・エクス・マキナの力を流し込む。
 電気ショックを与えたかのような音と共に、晴菜の体が吹き飛ぶ。義和がそれを受け止め、そのままの勢いで床に落ちる。
 段々とソゥハイトとしての姿が消えていき、人間としての姿が戻ってくる。取り敢えずこちらは大丈夫そうだ、その後完全に覚醒してソゥハイトを具現した場合どうなるかは知らないが。
「卓斗!」
 あっちが済んだら次はこっちだ。卓斗の方へと駆けていく。ほんの一秒あれば着く距離であるが、それが随分と長く感じられる。
 一応義和のおかげで傷は塞がってはいるようだが、後は矢張り卓斗次第となるだろう。かといって此処に栄養が採れるような物が……。いや、給食って一応考えられて作られてるのか、十二分だな。多分。
 取り敢えずまた保健室に逆戻りか。困った困ったあばばばばー。
「うー……すまん」
「何、秋宮先輩が助かってるんだ、んでもって生きてればモーマンタイって奴さ」
 取り敢えず卓斗に肩を貸して立ち上がる。こちらは意識があるので多少運びやすいだろうが、秋宮先輩はどうしたものか……。
 と思っていたら義和が秋宮先輩の手を肩に回して立ち上がる。姿勢こそ俺と変わらない物の、意識の無い人間を運ぶのと意識が在る人間を運ぶのとでは大分違うだろう。
 まず根本的に基礎が違うのね、と考え込んだ後、取り敢えず保健室を目指す事にした。渡り廊下の辺りで特に気を遣いながら歩いていく。


 取り敢えず、秋宮先輩と卓斗を保健室のベッドに寝かせる。二人が落ち着いて寝てる所を見て緋芽がほっと一息吐く。
 俺と義和は鳴神と遭遇しなかった事も含めてほっと一息、だ。
「これからどうするの?」
 くるりと振り返って、緋芽がこちらを見る。どうする、と聞かれてもまだ何も決めてないな。卓斗達を連れてくる時に適当に教室は見たが誰も居なかったし。
「取り敢えず、晶波先輩と秋宮先輩が目を覚ましてから動くしかありませんね」
 あくまで敬語で一番冷静に語る義和。
 古泉じゃないんだから、とツッコんだら何ソレという空気に包まれそうだし黙っておくことにしよう。
 何はともあれ、卓斗達が起きる前にある程度どうするか決めておくべきか。
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