第九話 一段落
「で、和途」
未だに緋芽は屋上で寝転がっている。と、その状態で動く訳にも行かないので、卓斗と会話をしている訳だ。
「何じゃらほい」
「こいつ、どうすればいい?」
顎で緋芽を指し、卓斗は言う。そりゃそうだ、精神世界出とは言え殺されかけたんだ、シャレにならん。
……が。春日のペルソナであるデウス・エクス・マキナの力によって今さっきの戦いの前後の記憶は飛んでるはずだ。
(……だよな?)
『うん、精神体に直接打ち込んだから、よほどの事でも無い限りちゃんと飛んでるはずだよ』
頭の中で自身のソゥハイトと会話を交わして、春日はもう一度卓斗の方に向き直る。さっきまで下を向いてたので、ソゥハイトと会話が出来るって事はおそらくはばれていないと思う。
……普通に話せるだなんて解ったら楓にかまけて使い物にならなくなりそうだからな。それに、楓からばらさないよう言われてるし。
「特に問題は無いだろ。今は向こう側にゆ……紅瀬先輩も見えない、暴走する鍵は何処にも置かれてない」
「……ま、お前がそういうならそれで良いさ」
其処まで会話を終えた所で、緋芽が眼を開ける。お、と言いながら卓斗が視線をずらしたので春日も気づいた。
「あれ? 何で私寝てるの?」
「いや、貯水タンクを俺が確認してる間に横になったと思ったら寝てたんだが……。憶えてないか?」
凄まじい嘘を吐く。多分今鏡とかあったら目が泳いでるんじゃないだろうか、などと思いながら春日は話す。
「で、別に化け物どもが来もしなかったからこうしてのんびりと待ってた訳」
卓斗が話を合わせてくれた。少しぽけーっとした後、何故だか緋芽は頷いた。取り敢えず状況には納得してくれたと取って良いだろう。
さて、此処からどうしたものか、と考える。下手に動けば異形達と接触するかも知れないが、かといって動かない訳にもいかない。
『しょうがないよ、取り敢えず生きてる人が居ないか探そう?』
(……ま、そうだな)
「よし、取り敢えず誰か居ないか探してみようぜ」
ある種の脳内会議で決定した結論をすぐさま言ってみる。あっさりと二人は頷いた。まぁ、この状況下で誰かが行動を起こせば、それに着いていくしかないだろう。
何はともあれ、探索開始、という状況。
取り敢えず屋上から階段を降りて四階に来てみる。……と、何か凄まじい量の異形が居た。
「やばいやばい、早く降りろ!」
まだ気づかれていないようなので、さっさとこのまま三階に抜ける事にする。と、
ぱき。
(あちゃぁ……)
取り敢えず大方予想は付くが、そのままギリギリと首を後ろに回す。どこかで異形になった生徒の遺品なのかなんなのか解らない鉛筆を、卓斗が踏みつぶしていた。
「……すまん」
「謝らなくて良いから逃げようぜ」
言った頃には既に緋芽の手を掴んで三階と四階の間に到達している春日。一斉に走り出した異形を目にして全力でこっちに来る卓斗。
そのまま三階の廊下に飛び出すと、三階には異形達が居ない事に気づき、そのまま反対側の階段へと駆け出す。と、丁度三組――三階は二年の教室だから、恐らく二年三組の生徒だろう――から少年が出てくる。
生徒なのは確かだが、ソレが正気であるかどうかは解らない。
そいつは、自分の真後ろに何十本もの杭状の魔力を精製する。
『和途、防御壁は!?』
(いや、要らない)
そのまま緋芽と一緒にそいつの方に走る。後ろから異形を大量に引き連れた卓斗が走ってくる。緋芽を前方に突き飛ばし、卓斗をこちらに引き寄せ、そのままの勢いで投げ飛ばす。
「二人とも伏せろ!」
そのまま異形の方へと飛び込み、一体を踏み台にして卓斗たちの方へ天井すれすれに高く飛び上がる。そして、
少年は弓でも引き絞るように腕を後ろに引き、前方に腕を突き出す。それと同時に何十本もの杭が閃光として射出される。弾丸のようなそれらは異形達の集団の中へと飛び込み、炸裂した。
ぽかんとした緋芽や卓斗の表情を見ながら、廊下に普通に着地する。そして振り返って、少年の方を見る。
果てなく知った顔だが、まぁ、うん、こちらの世界では大して面識もない、親しく話す訳にもいかないだろう。
「助かった、ありがとう」
「いや、生きてる人が居るなら出来るだけ護りたいからね」
そう言って笑った少年の名札には、城戸と書かれていた。
「城戸君、か」
名札を見ながらそう言う。言われて義和も春日の名札を見る。見てからこちらが三年で自分が二年だと気づく。
「あ、失礼しました。僕は二年三組の城戸義和です」
「あぁ、気にするな。俺は三年一組、春日和途。先輩って呼ばれるのは苦手なんで和途で良いや」
どの世界に行っても、義和は基本的に落ち着いてる常識人なので有り難い。そして相変わらずながらこのソゥハイト能力に対する順応の高さ。
こちらの世界でも学年成績はトップという噂が流れている。三年に二年の結果は伝わってくるはずもないので噂だが、まぁ、恐らくそうだろう。
簡単に一言で纏めてしまえば、こいつは『天才』って奴だから。そうだ、取り敢えず全員自己紹介させておくべきか。
そんなこんなで別の世界で知り合っていたはずの二人が目の前で自己紹介をしているという奇妙な光景を見ながら、ここから何処を探索するべきか考える事にした。
前へ/戻る/次へ