第三十七話 しあわせのうた


 目を覚ますと、ミーシアの顔があった。
「……おかえり」
「ただいま」
 会話を交わしてから、自分がミーシアに膝枕されている事に気づいて慌てて起きる。
 辺りを見渡すと、何もなかった。
 ただ草原が広がっている。空は真っ青。
 どうやら、世界が武器だったとは言え。
 その世界を殺せる終焉と真っ向からぶつかるのは結構バカらしい試みだったようだ。
「でも、帰ってきたよ」
 ミーシアはそう言った。
 確かに、俺はあの終焉に――俺を生み出した俺に、討ち勝った。
 俺は俺の悪夢から、やっと目覚められたのかも知れない。
「そう、だね」
 世界も、ラグナロクという悪夢から目覚められたと、ミーシアは笑った。
 もう、世界は終わらない。
 そして、ミーシア自身も、春日の呪縛から抜け出せた。
 彼女を傷つける物はもう居ない。居たとしたって、俺が傷つけさせない。
 俺たちは、俺たちの未来を紡いでいくんだ。
 隣で、ふとミーシアが空を見上げた。
 全てを乗り越えた世界がまるで歌うかの様に、青々とした色が広がっている。
 その空を見ているうちにふと気づく、
 俺の中から春日が消えている。
「大丈夫。みんな生きてる」
 その声を聞いて和途はミーシアの方を向く。
 大丈夫、ともう一度呟いてミーシアは和途を見つめる。
「……そうか」
 そう、きっと大丈夫なんだろう。
 俺は此処にいる、ミーシアも此処にいる。
 みんなが望んだ世界は、生きている。
 その中で何かが欠けるなんて事はきっとない。
 風が草を撫でて過ぎ去っていく。
 さあ、帰ろう、俺たちの世界に。
「行こう、ミーシア」
 彼女に、手を伸ばす。
「うん」
 その手を取って、彼女は立ち上がる。
 そのまま和途がミーシアを引っ張り、二人の唇は重なる。
「、」
 ミーシアが驚いた次の瞬間には離れていた。
 離れてから、目の前にいる少女を見つめて。
 いつの日か伝え損ねた、言葉を。
 あの時からずっと。
 伝えたかった言葉を、和途は紡ぐ。
「ミーシア。……好きだ」
「……私も」
 そう言ってミーシアは和途に抱きついた。


「もう。ずーっと待ってたんだからね?」
「だ、だから悪かったってば」
 手を繋いだまま、二人は歩いていく。
 上には青空、下には草原。
 遠くに見える街は、僕たちがしあわせを紡いで行く場所。


 きっと、そこにはみんなが居るから。

 きっと、最高の幸せが其処にあるから。

 今日も、明日も、その先も。


 世界は、幸せの詩を歌う。


 おしまい。
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