第三十二話 世界を殺すだけの力


「残念、ハズレだ」
 春日和途は一言、そう答えた。
 しかしあの光から感じられる魔力はアリスの物によく似ている。
 似ているといってもどこかの世界の真那から流れてくる感覚でしか感じた事はないが。
「Malice。悪意とか恨みだとか、そんな意味合いだわな」
 つまりはあいつの出来損ないだ、と言った。
 春日和途が佐上和途とミーシアを戦わせ、神殺しを手に入れされた理由。
 それこそがミーシアの中に眠る『彼女』の力だった。
 元々春日和途の目的は世界全てを手に入れる事だった。しかし彼個人の力ではどう足掻こうと敵わない者達が居た。
 そしてそれに打ち勝てるだけの力――、その一つが“アリス”だった。
 悠斗と共にある彼女の力を得るために春日はミーシアを生みだしそして存在するべき少女の姿を作り上げようとした。
 しかし“それ”は埋める事の出来ない欠陥を持った者となった。
 彼女――“アリス”の力を得るに至れなかった少女、それがミーシアだと。
『そういうこった』
 一連の流れを春日は頭の中でそう呟いた。
「さすが俺様、よく解ってる」
 悪夢はそう呟き、
「そして、その力のプロテクト――神殺しはお前が奪い取った」
 そして和途と共にいる事によって、
 彼女が“マリス”である所以であった足りない物が、埋まった。
 つまり、ミーシアが和途と共にいる事で、悪夢の求めていた『彼女』の力は完成していたのだ。
 故に今回春日和途は、ミーシアを奪い取り――、
「あいつの中のその力は頂いた。とっとと帰って余生でも楽しめよ」
「ふ、……ざけるな」
 アリスだろうがマリスだろうが、世界を征服出来る力だろうがどうでも良い。
 そんな事で手に入れた最強に俺が負けるわけには行かない。
「……これでも同じ言葉が言えるか?」
 ズガン、と迸る衝撃波で和途は吹き飛ばされた。
 勢いよく後ろにあった壁に激突して、ようやくその勢いは止まる。
 春日和途の手に握られているのはパンドラ、
 つまりファーストエンディング管理者、上津章人はあいつの中に取り込まれた。
 それと同時に何かがあれの中に芽生えた。
 それはゲート騒動で、ラグナロクを起動させた存在。
 パンドラを所持する章人、彼とはまた別の上津章人。
「テメェが殺した俺とこいつ、そしてラグナロク」
 全ては俺が頂いた、そう彼は言った、
「殺神和途。名に意味を持つのが貴様だけだと思ったか」
 章人から奪い取った力、ミーシアから奪い取った力、
 世界の全ての終焉をかき集めたその力。
 そして全ての春日和途が所持する、幻想を力に変える能力。
 最初の火が、悪意を灯す。
「原火和途。それが俺の真名だ」
 原(はる)の火(ひ)。春日の二文字に宿された意味。
 神を殺す俺と、全ての和途の基盤である春日。
 つまり簡単な話だ、
 俺という『神を殺す程度しか出来ない』力を持つたった一人の人間と、『その全てを生み出した始まりの炎』、どちらが強いか、
 そんな事は決まり切っている。
「で、それが何だよ」
 和途は低く唸る様に呟く。幻萼が白く淡い光をちらちらと零す。
 本当に、ただそれだけの話だ。
 世界が手に入れたくて、自分が敵わないと思っていた人間と同等の力が欲しくて。
 その為に俺の友達を取り込んで、世界の終焉を取り込んで、
 俺の大切な人を壊して得たその力。


 その程度の強さがなんだって言うんだ。


「俺には……帰る場所がある」
 ゆらりと、切っ先を悪夢に合わせる。
 悪夢は獰猛な笑みを浮かべたまま、透明な大剣をその手に握る。
「そうだ、だからとっとと帰ってゆっくりと楽しんでいればいい」
 全ての世界を壊した後ゆっくりとお前達を俺は殺してみせる、
 全ての幻想を食い尽くすと悪夢は呟く。
 それでも、
「あぁ、とっととアンタを殺して帰らせて貰う」
 その程度の悪夢に、俺の幻想は砕けない。
「言ってくれるじゃねぇか」
 そして二つの幻想は互いの夢を食らい合う。


「紅蓮!」
「黒龍!」


 一手目。
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