第一話 ログイン
『ラグナロクサーバに、他サーバからのログインを確認』
宙に浮いた蒼いウィンドウが機械音声を発する。ツツツ、と画面を下にずらしていくとサーバ名が表示される。
「……アルファサーバ? ……始まり、ねぇ?」
サーバ名【ラグナロク】、ワールド名【シンセカイ】。其処に新たに生まれた太陽の街、サン・ミゲルの片隅にぽつんと建っている一軒家。
セカンドエンディング管理者、佐上和途は其処にいた。
「何々、どうかしたの〜?」
後ろのドアがキィ、と軋み、少女が部屋の中へと入ってきた。ノックぐらいしろよ、とかツッコもうかと思ったが、今更何を隠してもしょうがない。
「ミーシアか」
くるりと和途は振り向き、同時に蒼いウィンドウはフッ、と姿を消す。不服そうにウィンドウの消えていく様を見送ったミーシアが口を開く、
「相変わらず私には見せてくれないのね、ソレ」
「まぁ、流石に世界の管理レベルだからなぁ……。ゴメン」
素直に手を合わせて謝る和途。……ここら辺がどう考えても彼のベースとは違う部分である、というのは太陽の街に住むとある太陽少年のコメント。
「ま、和途が居ればそれで良いんだけどさー」
言いながらミーシアがもたれ掛かってくる。それを適当に受け流して普通に床に座らせた後、ミーシアの本来の目的であったお茶を差し出されそれを飲む。
「報告出来ない、って事は私たちには関係無いのよね?」
「あぁ、今のところ害は無いよ。……このまま報告せずに済むことを祈るさ」
ズズズ、とお茶を啜る音が静かな室内に響く。朱銀の右目がじっ、とミーシアを見つめたまま固定される。
「流石に其処まで見つめられると照れちゃうんだけど……」
「お前が普段そういうキャラのくせに」
ふらり、と目線を逸らして、和途は窓の外を見る。晴れていた空には暗雲が立ちこめてきている。……どう考えても何か起こる流れである、真に残念ながら。
ビーッ、と警告音がなり、次の瞬間に蒼いウィンドウが空中に幾千と展開され和途を囲む。
『先刻ログインした物質がワールド【シンセカイ】に侵入を試みています、対処を』
ズズズ、とお茶をまた啜り、和途は口を開く。手が塞がってても音声入力が出来るというのだから、世界の管理というのもなかなか楽な物である。
「時空障壁を二億四千万展開、内一億二千万が突破された場合は砲撃システム『龍ノ咆吼』の使用を許可する」
着陸しようとする旅客機に対して空港を閉鎖するようなこの行為はちと閉鎖的かも知れないが、こちらとて世界を一つ管理する者、メール一つよこさない来訪者を入れるわけにはいかない。
『了解』
一言そう答えると、蒼いウィンドウは姿を消した。……次の瞬間には、また姿を現した。ウザったいな、と言いたげな目で和途がソレを見つめる。
『時空障壁、残数八千万』
「は!? 今の一瞬で三分の二も削られたのか!? 龍ノ咆吼は!?」
『壱式砲撃、改式砲撃が既に発射、共に直撃。ただ、標的にダメージは在りません』
「……おいおい、嘘だろう……?」
言いながら和途はミーシアの方を振り返る。コクリと頷くと、ミーシアは走り始めた。恐らく予想は付いているだろうが、卓斗や悠斗、麗華達にも動いて貰わないと不味いだろう。……何せ、世界のシステムなんて物にハッキングを仕掛けてくる馬鹿野郎だ。
『零式砲撃、発射。……敵ダメージ、皆無』
「零式砲撃まで無効化、か……」
呟くと同時に蒼いウィンドウが警告音を再び発した。時空障壁は残数ゼロ、龍ノ咆吼も全て無効化されている状態、最早……止められる物は無い。
ならば、
「正面から、か……」
言いながら、佐上和途は腰の後ろに手をやる。ベルトに付いているホルダーを弾いて短剣が飛び出し、するりと和途の手の中に収まる。
「ふぅ。……章人に連絡しておいた方が良いだろうな」
最近は、ラグナロクサーバ以外のサーバの人間とのネットワークも出来てきていた。それぞれの世界に、それぞれの幻想という世界を生み出した管理者が存在しているようで、それは無論、俺、佐上和途のベースである春日和途のワールド【パンドラボックス】も例外ではない。
其処――俺のベースが存在するため、ファーストエンディングと呼称されている――の管理者は、上津章人。
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