エピローグ


「リュアール、俺は……」
 朝日が昇る中、ラセルトが呟く。
「負けちゃった、か……」
 仰向けに倒れながら、そう呟いたリュアールへ、ラセルトが手を伸ばす。
 何を無駄な事を、と彼は言うが、それでもラセルトは止めない。
「来い。俺と、行こう」
「どこへさ。僕には……もう何も無いのに」
 ダークの力も、何もかも。自分が生きる理由としていた物が、消えてしまった。
「そんな物、作れば良い。ザジさんだって、待ってる」
 それを聞いて、一瞬だけ驚いた様な表情を見せてから、彼は空を見上げ、息を吐く。
 そっか、とリュアールは一言だけ呟いた。
「なんだ。僕の居場所なんて……ずっと残ってたんじゃないか」
「そうだよ。誰にだって、あるんだ」
 待っている人が居る。支えてくれる人が居る。
 護りたいと思う、物がある。
「誰だってそうなんだ。誰にだって、願いはあるんだ」
「ボクらの太陽、ね。……くふふ、願いだけで銀河の意志も倒しちゃうなんてね」
 笑いながらリュアールはラセルトの手に自分の手を重ねる。
 それと同時に、彼の身体が光となってこぼれて消え始める。
「リュアール!?」
「僕はダークになったんだ。彼が滅べば僕が消えるのもしょうがないさ」
 慌ててラセルトがリュアールを抱きかかえるが、どうすれば良いのかわからない。
 おてんこ様の方を向くが、彼はただ首を横に振った。
「たくさんの人を殺したんだ。消えるくらいは当たり前だよ」
 目を細めながら、彼は呟く。
「それでも、今お前は生きてるじゃないか……!」
「でももうすぐ死ぬのもまた事実だ。死者は死の世界へ行くが定め。まあ、それも悪くない。……父様にどれだけ怒られるか解ったものじゃないけど」
 今までラセルトに見せた笑みと全く違う笑顔を、リュアールは見せた。
 ラセルトの手にかかる彼の体重が、どんどんと軽くなっていく。
「安心しなよ、ラセルト。君は僕を救った。父様の願い通りにね」
「嫌だ、まだ終わってない! 帰るんだよ、一緒に……」
 終わりが目の前に見えていても、諦めたくない。
 何故目の前に居る、数分前まで殺し合っていた相手に消えて欲しくないのかなんて、解らない。考えるのなんて後で良い、ただ、消えて欲しく無いんだ。
 しかし、リュアールはラセルトがどうして必死なのかを知っている様な顔だった。
「僕と君は、同じだよ。魂を分けた存在だ」
 それでも、と彼は続ける。
「終わりは来る。僕らは別れる時が来たんだ。それでも君は生きろ、生き続けろ。君の全てを燃やし尽くして」
 その世界の果てに、僕は待つからと。
「もう一度言うよ、ラセルト。君は確かに、僕を救ったんだ」
 居場所が欲しくて、何もない世界に沈んだリュアール。
 最期の最後、ラセルトはそこから彼をを引きずり出した。光も闇もある、色の付いた世界に。
「母様に、伝えてくれないかな。……ごめんなさい、って」
「自分で言えこの馬鹿!」
 馬鹿とはなんだよ、とリュアールは薄く笑う。
 言いながら、ラセルトの頭を軽く叩いて、
「ありがとう」
 そう言った瞬間、彼の身体は黒い光になって弾け飛んだ。
 ラセルトの身体から、黄金の光が溢れ出す。二つの光が混じり合って、紫紺の光となる。それはラセルトの真上へと上っていき、弾けた。
 空の全てを覆う様にして、光は駆け抜けていく。
 その光景を見ながら、ラセルトは立ち上がる。しばらく間を置いてから、ラセルトは振り返る。
「終わったな。……ラセルト」
 おてんこ様が、ラセルトに話しかける。
「俺は、……俺は、何になれたんだろう」
 父や、祖父の様な英雄になれた気なんて、ちっともしなかった。
 ただ、自分の半分が消えた感覚だけが、胸に残っている。
「ジャンゴも、リンゴもそうだった。彼らは、そんな称号を望みはしなかった」
 ただ一つだけ確かな事がある。
「お前達は、太陽になったんだ。人々の希望に」
 それを聞いて、父の言葉を思い出す。
 前を見据えて、朝焼けの中、ラセルトは呟く。
「じゃあ、俺は。燃え続ける。絶対に沈まない太陽になる」
 リュアールは言った、全てを燃やし尽くして生き続けろと。
 その先で、自分は待つから、と。
「あいつの分も生きる。生きて生きて……俺に出来る事を全てする」
 世界の全ての希望になる。何もかもを照らす太陽になる。
「帰ろう、おてんこ様。俺たちの居場所に」
「ああ。私もお前と共に在ろう。世界の太陽になるために」
 言葉を交わして、彼らは走り出す。
 世界の全て、その希望。
 ――彼らの太陽は、今、昇った。


 おしまい。
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