第二十二話 同じだけど何かが違って


 ダン、
 派手な足音を立てて、春日和途は其処に降りる。
 落ちてきたリンゴを加減した爆風で浮かせ、怪我一つなく降ろす。
「お前、あれを食らって何で……?」
 困惑と驚愕と、そして恐怖。入り交じった感情を見せるリンゴを、春日はちらりとだけ見る。つつ、とその視線は下に降りていき、ホルダーの中の太陽銃を捉える。
 直ぐに目線を逸らし、春日は森の中へと消えていった。
「お、おい!」
 リンゴが追いかけようとし――。
 べしっ。
「何するんだよ、おてんこ!?」
「リンゴ、あれは――」
 リンゴを転ばせたおてんこ様は、宙にふよふよと浮いている。
 森の中、がさがさと音を立てながら遠ざかっていく春日が見えなくなってから、彼(?)は呟く。
「カスガヤマトでは、無かった」


 森の中、春日で無い春日はさまよい歩く。
 彼がふと立ち止まった瞬間、森に潜んでいたらしきロックマンの量産機達が円を描くようにして足を止めさせる。
『にしても、量産のくせにエックスだかゼロだか、よく此処まで性能を上げるもんだ』
 ぽつりと、声が響く。しかし、春日の口は全く動いていない。
 元々黒いその瞳は、全ての色を塗った上で完成した黒であるように、どろどろとした物になっていた。
『しかしまぁ、俺は元を知ってる訳じゃないが』
 ぎこちなく、春日の腕が上がる。ボゥ、と酸素を取り込む音と共に指先に光が灯り、そしてそれが地に落ちた瞬間魔法陣を形成する。
『所詮紛い物、纏めて弾け飛べ』
「如月流魔術、嘆唄」
 まるで機械の様に、春日の口から言葉が紡がれる。同時に十何体と居たはずのロックマン達は消え去っていた。


「な、んで……」
 卓斗は既にぼろぼろだった。
 それは何百体というロックマン達と戦った傷。しかし、それがあろうがなかろうが、目の前のそれには勝てないのかも知れない。
 何故か、そう思ってしまう。
 自分は、こいつを知らない。『なのに何故か知っている』。
「なんでアンタが、此処に居るっ!」
「おや、俺を『知る』とは……。楓ちゃんの仕業かな?」
 短い茶髪。その下から朱色の眼が射抜くように卓斗を見る。
 口を笑みの形に曲げ、その男は其処に立つ。
「っと、和途の奴は居ないのか。んじゃ、俺は退場するか」
 そしてそいつは踵を返し、そして戻ろうとする。それが当たり前であるかのように、まるで下校でもするかのような単調さで其処を出ようとし、
「させませんっ!」
 飛び出た義和が一撃を放つ。
 そいつを敵と認めるには十分だった。この男からは、先程空中都市から放たれていた砲撃、それと同じ力を感じる。
 ゴッ、
 鈍い音と共に、義和が真横に吹き飛ぶ。
 同時に、残った数体のロックマンが男の元へ飛ぶ。男が何か言うと、その全ては帰っていった。
 しかし、止められない。
 止めようと動ける物は、居ない。
 何故かって、その男は舞台に登場すると同時に、登場人物のほとんどを蹴散らした。
 それでも、吹き飛ばされた人達に怪我はない。
「女性を傷つける趣味は無いんだが」
 向かってくるなら潰すまでさ? そう、そいつは言った。
「如月、真那……!」
 知らないのに知っている。
 こいつ相手に、俺じゃ勝てない、と。それでも卓斗はシュヴルツを構え、そして次の瞬間には吹き飛ばされる。
 一瞬だけ彼の後ろに何かの影が見えたと思った瞬間、その意識は強制的に閉ざされた。


『さて、其処までにしてもらおうか、真那』
「……和途か」
 真那がその右手を虚空に向けた瞬間、校門の方から声がし、そして真那はそちらへと向く。
 その口を全く動かすことなく喋る春日、それに向かって校舎から白い光が飛び出し、そして包み込む。
『全システムの復旧、及び正常化作業完了』
 機械的な音声が響き、そしてどす黒い瞳は、いつも通りの濁った黒に戻る。
「全く、デムも本当よく出来た奴だった」
 まさか校舎に復旧プログラムまでセットしておくとは、と春日は続ける。
 そして黒の眼と朱色の眼が宙にてその視線を交差させた次の瞬間、
 朱い大剣と黒い刃がぶつかりあう。その一手目は互いをはじき飛ばし、そして
「黒龍」
「紅蓮」
 二手目。斬撃が空間を切り裂きながら激突し、炸裂する。校庭の砂が辺りに散らばったかと思った次の瞬間、その真ん中で三手目が衝突する。
「おや、お得意の幻想オンパレードはどうしたんだ?」
「残念、数十分ほど前に跡形もなく片っ端から砕かれたよ」
 ぎりぎりと刃を軋ませながら言葉を交わす。真那の灯疾が春日の剣を弾き、そして生まれた隙は一撃を叩き込むには十二分、
 真那のなんらかの呟きと共に素手での一撃が春日の腹部に叩き込まれる。勢いよく弾け飛ぶようにして後方に春日が転がっていく。
 立ち上がり、そして目の前に居る真那、その口は間違いなく呪を紡いでいる。
「っく、嘆唄!」
「天和籠瞑」
 炸裂する大気を押しのけて、朱い鳥籠が春日を取り囲み、そして内部を爆発させる。爆風が収まった其処に倒れている春日、真那が近づいていくと、
「ドラゴニア・スレイヴ」
 呟きと共に、竜殺しの剣を模した炎が閃光として射出される。どうにかそれを避けきった真那に一撃を叩き込む。
「これは……!?」
「ご名答、神殺しの奴の力、さ」
 復旧プログラムと共に、デウス・エクス・マキナは面白い物を残していった。
 バックアップの為の外部記憶装置。
 それは今、春日の左手首にアクセサリとして着けられている物。その真っ白なブレスレットは、薄ぼんやりとした光を放っている。
「また似合わないプレゼントを」
「似合わなくても実用的な物はあるぞ」
 パチン、と火花が散る。真那の右手に真っ赤な焔が収束していく。春日がその右手を構える。真那と同じように、炎が手に集まっていく。
 ただ、その色は真那の物とは全く違う。
「如月流秘術……」
 真っ白なその光は、今其処に何もない、というそれを表すかのような色。
「灼景!」
 叫びと共にぶつけあった一撃が、閃光を周囲に飛ばす。
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